オシップ・ザッキン 《恋人たち》
黄金の恋人
背の高い方が男性で低い方が女性でしょうか。
全身が金色で輝いた二人の人物が手を取り合って肩を寄せています。
しかし、身体はカクカクと無機質に表現されています。しかし、お尻や太ももよあたりは腕や胸のあたりに比べるとふっくらと表現されています。
彫刻のまわりは花で囲まれ、彫刻自身も金色で、人通りも多い場所なので、とても明るい印象です。とは言うものの、パブリック・アートの宿命なのか、この彫刻に目を留める人は誰もいません。
福岡に滞在の方であればご存知の方も多いかもしれませんが、この場所は宝くじの販売場所で当たりがよく出ると有名なところです。
六枚目の写真、彫刻の裏側(道路側)に
この彫刻は宝くじの普及宣伝事業として設置されたものです。
と書かれています。
彫刻が黄金なのも、幸せそうな恋人が題材なのも、「宝くじの宣伝」という目的のためかもしれません。
ザッキンとその時代
この作品はオシップ・ザッキン《恋人たち》という作品で1955年に制作されました。
この時代は、黒人彫刻の影響を受けたモディリアーニや、キュビスムのピカソが活躍し、彼の作品にもその様子が表れています。
特にこの頃のキュビスムの彫刻は、絵画と同じように、大胆に対象を解体し、再構成して、構成主義や表現主義にもつながる新しい造形表現をもたらしました。(高階秀爾監修『西洋美術史』2007年、美術出版社)
また、キュビスムの絵画が立体的な対象を平面化したのに対し、キュビスムの彫刻はその過程を逆にたどり分析したものを立体化しようとしており、このことは彫刻の伝統的な概念を壊すほど革新的であったといいます。(末永照和監修『20世紀の美術』2013年、美術出版社)
経歴
オシップ・ザッキンは1890年にロシアのスモレンスクで生まれました。
1909年にパリに行き、「エコール・ド・パリ」の画家たちと親睦を深めました。
このときにキュビスムにも触れています。
1940年に戦争でアメリカに渡っていますが、4年後にはパリに戻ってきています。
彼は彫刻の素材のなかでも特に木が好きだったようです。
モンパルナスに残る彼のアトリエには、木の彫刻がたくさん展示されているとのことでした。
わたしは実際に見たことはありませんが、写真でみる限り、滑らかな木で制作された女性の裸体像が今回の作品とはまた違って、比べてみるとおもしろいかもしれません。
参考サイト
Zadkine Reserch Center http://www.zadkine.com/