まちなかアート探索

まちのなかにある美術作品についてあれこれ書きます。主に福岡、ときどき他のまち。

ニキ・ド・サンファル 《大きな愛の鳥》

 

ぎょっとさせられる色彩

福岡の百道浜ヤフオクドームの近くに立ちすくむ作品です。

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大きな岩の上に立ちはだかっているので、こんな角度からしか写真が撮れませんでした。

大きな翼に大きなくちばし、胸もふっくらしている凛々しい鳥です。

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この時間は正面から撮ると逆光になってしまいましたので、後ろ姿の全体像です。

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鳥の正面にヤフオクドームが見えます。

 

この作品は鳥を表しているようですが、ふっくらとした胸は女性のようでもあり、がっしりとした足は男性のようにも見えます。

 

そしてなんといっても目にはいるのは色鮮やかな色彩です。

赤・黄・青・黄緑・黒といった色がくっきりと彩られています。

 

作者はニキ・ド・サンファルです。

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 だいぶ解説板が古くなっていて見えにくくなっています。写真を拡大してみてください。

 

彼女が今回のような色彩豊かな作品を制作するに至ったのは、まず、当時の美術の流れとも言えると思います。

 

彼女は1930年から2002年までを生きた芸術家です。

特に60年代はヌーヴォー・レアリスト、大量生産された製品や廃棄物を使って美術作品を作る人々と一緒に射撃絵画に取り組んでいます。

射撃絵画はその名の通り絵の具入りの容器が詰め込まれたレリーフや彫刻をライフルで撃って完成させた作品です。

実際に作品を見ていただくといちばんわかりやすいのですが、様々な色の絵の具が飛び散る様子はなんともおどろおどろしいものがあります。

 

この射撃絵画と今回の作品はまったく違うものではありますが、色鮮やかに飛び散る絵の具の様子をみると、射撃絵画制作当時からニキは色彩に興味があったのではないかと思われます。

 

ニキと神話

《大きな愛の鳥》は鷲の姿をしています。

解説にも描かれている通り、ニキはエジプト神話のホルスをイメージしているようです。ニキの過去の作品にも《ホルス》と題されたものがあります。

ホルスは古代エジプトの天空神・太陽神であり、鷲の頭で体は人間の姿をしています。今回の作品はまさにその姿です。

さらに言うならば、鷲のモチーフはエジプト神話だけではなく、ギリシア神話ではゼウスは鷲に変身して空を飛び、神聖ローマ帝国では双頭の鷲を紋章としていました。鷲は勇敢なものの象徴として古くから伝わっていたようです。

 

そしてニキはエジプト神話には特別に関心を寄せていたようですが、なにより動物や自然を愛するアニミズム的信仰に関心があったようです。

ニキの作品をみると、ヘビ、クモ、カエルなどたくさんの生き物が出てきます。神話と結び付けられて製作したのかもしれませんが、イタリアのトスカーナ地方にあるニキの作品《タロット・ガーデン》をみると、神話を参考にしていると言うよりは、ニキ自身が神話を作り出しているかのようにもわたしには思えました。《タロット・ガーデン》は22枚のタロットカードをイメージした作品が立ち並んでいて、とても奇妙な世界でおもしろいです。

 

《大きな愛の鳥》に至るまで

ニキ・ド・サンファルと言えば有名なのは《ナナ》シリーズです。《ナナ》シリーズでは女性をテーマとした作品が多く作られ、このときの色彩は今回の作品《大きな愛の鳥》と近いものを感じさせます。

60年代、70年代では女性をテーマとした作品を多く残していますが、次第に今回の作品のように神話に基づく動物や自然をテーマにした作品が増えてきています。ニキはきっと女性を探求するうちに人類の誕生であったり自然であったりと、もっと大きなテーマを見出すようになったのではないでしょうか。

 

ニキ・ド・サンファル

1930年から2002年を生きたフランスの画家であり、彫刻家であり、映像作家でもあります。20歳頃までアメリカに住んでおり、その後パリに移っています。

ジャスパー・ジョーンズやラウシェンバーグとも交流があり、彼らと一緒に作品を製作しています。

初期は射撃絵画を描いていたニキですが、その後立体製作に路線を変更しました。

立体作品を製作しつつ、映画も製作していたという多彩な人物です。

なんと日本には唯一ニキの作品だけを展示する『ニキ美術館』が栃木県那須市にありましたが、残念なことに2011年の8月に閉館していました。しかしホームページを覗くとグッズ販売だけは続けていて、ネットショップで購入できるようです。

興味がある方はみてみるとおもしろいかもしれません。

 

参考文献

ニキ美術館『ニキ・ド・サンファル』美術出版社、1998年

野間佐和子『ニキ・ド・サン・ファール』(現代美術、第16巻)、講談社、1994年