バリー・フラナガン 《ミラー・ニジンスキー》
踊る野うさぎ
福岡の百道浜の川にかかる橋の両端に一体ずつ今回の彫刻は設置されています。
今回掲載している写真の上2枚と下2枚は別の彫刻です。とはいってもほぼ左右対象の同じ形をしています。
片足でいまにも飛び立ちそうな、人間のようにも見えますが、大きな耳からうさぎだと判断できます。
手も足も胴体も細く、とても軽やかな動きをしています。手と足が左右長さも違う上にうねうねしていて、とても躍動感が出ています。
Vatslav Nizhinskii
タイトルが《ミラー・ニジンスキー》となっていることから、この作品は鏡に映るかのように彫刻が左右対称に作成されています。
ニジンスキーは、1890年から1950年に生きたロシアのバレエダンサーで振付師です。
彼が関わったバレエ作品は多数ありますが、バレエにあまり詳しくないわたしが印象に残っている彼の作品の中に、ドビュッシーの管弦楽曲「牧神の午後への前奏曲」による『牧神の午後』があります。
Nijinsky and Rudolph Nureyev L'apres midi d'un ...
この振付はとても性的で、現代のわたしにとってもかなり衝撃的でしたので、ニジンスキーの振付は当時もっと騒がれたことが想像できます。
フラナガンと野うさぎ
フラナガンはニジンスキー作品を見て、その動きを兎で表現したいと思ったのでしょう。というのも、フラナガンは野うさぎをモチーフにした作品をバレエに限らず多く制作しているからです。
ボクシングをしたり、歌を歌ったり、フラナガンはうさぎを人間のようなさまざまな動きを表現しています。
そもそもわたしたち日本人にとってうさぎといえば「ウサギ」としか言い表せませんが、英語では"hare"と"rabbit"の二種類あります。
"hare"は野うさぎで大型で平地に住み、"rabbit"は飼いうさぎで地下に住むそうです。
フラナガンのうさぎシリーズは野兎シリーズと呼ばれており、大地を駆けまわるような姿で表現されています。
うさぎと言えば日本では月の中で餅をつくうさぎが思い浮かびますが、他にもアリス物語のうさぎなど、うさぎは多くの物語に登場します。
おもしろいのはうさぎと月との関係は共通していて、フラナガンも月とうさぎが一緒になった作品を制作しています。
フラナガンがうさぎを一連の作品として制作するようになったのは、ある日フラナガンが車を運転しているとき、たまたま垣根の向こうを走る野うさぎと、それには気がつかない父親と子どもと犬の姿を見て、「これは自分のオリジナルなものとして再現できる体験だ」と思ったことがきっかけらしいです。
Barry Flanagan
バリー・フラナガンは北ウェールズのプレタティンで生まれました。
彼はバーミンガム大学で建築を学び、1964年にロンドンのセントラル・セント・マーチンズで彫刻の資格を取っています。
野兎シリーズについて、彼は1979年に最初のうさぎの作品を制作しており、1980年代初期に多くの作品を残しています。
1983年には一角獣の作品も残しており、うさぎだけではなく馬、単に動物というだけではなく、神話的な要素にも関心を持っているようです。
2011年にテイトではバリー・フラナガンの1965年から82年の作品を公開しています。
参考文献
『美術手帖』美術出版社、1983年7月号
『美術手帖』美術出版社、1985年12月号
参考サイト
THE ESTATE OF BARRY FLANAGAN/BRIDGEMAN ART LIBRARY